寺内の宿舎に一応落ち着いた信長がしばらくして姿を現した時、待っていた家臣たち一同はあっとわが眼を疑った。それは今迄夢想してみたこともない新しい信長の姿を見たからである。髪は折曲げに結い、かちんの長袴をはき、小脇差を差しまるで絵から抜け出たような典雅な容姿と美貌が、一きわ端麗に見せていた。出迎へる斉藤家の家老には目もくれず長袴の裾を引いてするり、するりと通りぬける。さすがのまむしの道三も、これはただの うつけではないぞと内心きもを冷やすのである。
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